大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)140号 判決 1974年4月15日

原告 株式会社人形町勢州屋酒店

被告 日本専売公社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対して昭和四七年六月二三日付でした塩小売人指定期間満了に伴う不継続処分を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二原告の請求原因

一  本件処分の経緯

1  原告は、酒類、塩類等の小売を業とする会社であるが、昭和四四年七月一日付で被告から期間を三年とする塩小売人の指定を受けて、塩小売業を営んできた。

2  ところが、被告は、原告に対し昭和四七年六月二三日付で前記の塩小売人指定の不継続処分(以下、「本件処分」という。)をし、右処分の通知は、同年六月二六日原告に到達した。

二  本件処分の違法事由

しかしながら、本件処分は、原告については塩小売人の指定期間満了の場合に引き続き指定することを適当と認めるべき場合(塩専売法―以下、単に「法」という。―二六条三項)に該当するのに、誤つて不継続としたものであつて、後記第四の二のとおり裁量の範囲をこえた処分であるから、違法である。

三  結論

よつて、原告は、本件処分の取消しを求める。

第三請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因の認否

請求原因一の事実は認めるが、同二の点は争う。

二  被告の本件処分の理由についての主張

1  塩小売人の指定は、塩の専売権を有する国からその権能を与えられた被告が塩の小売をすることができる者を定める行為であるから、本来、被告の裁量によつて行うことのできるものであるが、その裁量が恣意に流れるのを避けるため、指定について一定の裁量の基準が定められている(法二五条、塩販売人指定事務取扱手続―以下「手続」という。―及びその細則)。また、塩小売人の指定は、その期間が満了した場合に引き続き指定すること(以下「指定更新」という。)が適当と認められるときは、申請をまたないでその指定をすることができると定められている(法二六条三項)が、指定更新の性質は、同法条の規定の仕方、位置からして新規の指定と基本的には異ならないと考えられるから、前記の新規の指定についての裁量の基準がこの場合も基本的には妥当する。しかし、指定更新は、既に塩小売の実績を持つ者に対し引き続き塩の小売をさせるのが適当か否かの判断によつて行われるのであるから、被告は、その基準を更新期のつど塩小売人指定更新実施要領によつて定めているのであつて、昭和四七年六月三〇日を指定の終期とする塩小売人の指定更新についての実施要領は、昭和四六年度の塩販売数量が手続二五条に基づいて設定した地域区分ごとの販売標準数量の三分の一に達しない場合には原則として継続して指定しない旨を定め、ただ、消費者の利便その他特殊な事情を考慮して、(一)最寄り小売人との距離が地域区分ごとに定められている距離(原告が入つている地域区分の場合は一五〇メートル)以上の場合、(二)交通不便な山間へき地その他需給上必要と認められる地域にある小売人である場合であつて、かつ、不継続とすることにより消費者の便益を著しくそこなうと認められる場合には、その販売数量が販売標準数量の三分の一に達しない場合にも継続して指定することができる旨を定めている。

2  ところで、原告は、遅くとも昭和三八年七月一日以降塩小売人の指定をうけていたが、被告は、原告について、同四七年六月三〇日を終期とする指定期間満了に伴う指定更新に当たり、前記要領によつて審査したところ、原告の営業所所在地の地域区分においては、販売標準数量が四七〇〇キログラムと定められているのに、原告の昭和四六年度における塩販売数量は一〇八四・八キログラムであつて、右販売標準数量の三分の一である一五六六キログラムに達しないこと、及び原告の最寄りの小売人たる株式会社丸三福岡商店との距離は僅か約九〇メートルにすぎず、また他の小売人の配置状況(原告の営業所周囲には、前記丸三福岡商店のほかに、東約一二〇メートルに合資会社野沢商店、北約一五〇メートルに細沼格太郎、西約一五〇メートルに小山好一、西南約二五〇メートルに有限会社民善商店、南東約二六〇メートルに有限会社日野屋が配置されている。)等からして、原告を不継続処分にすることにより付近消費者の利便が著しく損われることはないことが認められ、ほかに原告を継続して指定しなければならない特殊な事情も認められないので、原告について本件処分をしたものである。

したがつて、本件処分は、被告が、与えられた裁量権を適正に行使して行つたものであるから、適法である。

第四被告の主張に対する原告の認否及び主張

一  被告の主張の認否

被告の本件処分の理由についての主張1の事実のうち、指定更新が新規の指定と異ならないとの点は争うが、その余の事実は認め、また、同2の事実のうち、原告を不継続処分にすることにより付近消費者の利便が著しく損われることはないとの点は争うが、その余の事実はすべて認める。

二  原告の主張

被告が本件処分の理由とする指定更新の基準について、販売標準数量を過去三か年の当該地域における平均販売数量により決定するのに対し、指定更新の際の基準に適用されるべき当該塩小売人の販売見込数量を前年度のみの実績によつて判定するのは不当である。また、右指定更新の基準となる販売見込数量及び販売標準数量等を原告に告知しないで本件処分をしたのは、不当である。

更に、本件処分によつて、付近消費者の利益を著しく害することは明らかであるから、この点においても本件処分は違法である。

なお、被告の後記第五の二の1の主張事実のうち、被告主催の昭和四四年七月二一日の東栄ホールでの集合指導において「塩小売人指示事項ならびに営業心得」の配布があつたことは認めるが、その余の事実は争い、また、後記第五の二の2の主張事実のうち、販売標準数量及び塩小売人の販売見込数量が被告主張のようにして定められることは認めるが、その余の点は争う。

第五原告の主張に対する被告の反論

販売標準数量の算定は、地域区分ごとに定められている標準供給人口(原告の地域においては一〇〇〇人)に一人当たりの消費量(各都道府県ごとにその地域内の年間小売人販売実績数量を人口で除したものの三か年平均の数量)を乗じて行われるが、ここにおいて一人当たりの消費量が過去三か年の平均を基礎として算定されることになつているのは、単年度のみの実績を基礎とする場合にあり得るばらつきを避けるためである。他方、販売標準数量と対照すべき当該申請者等の予定営業所において見込まれる販売数量については、継続して指定される小売人の場合には過去の実績が存在するところから、過去の販売実績の中では将来的販売見通しに関する判定の基礎として最も妥当と考えられる直前一年間の当該小売人の実績を用いることとされているのである。したがつて、このような判定方法にはなんら不合理はない。

原告に対する販売標準数量等の告知の有無は、本件処分の適法性についてなんら影響を与えるものではないが、参考のために付言すれば、昭和四四年に実施された指定更新の後に行われた同年七月二一日の中央区日本橋小網町東栄ホールでの日本橋塩販売組合員を対象とした集合指導に際して、被告は同年七月一日以降に適用されるべき「塩小売人指示事項ならびに営業心得」を記載したパンフレツトを配布して解説を行つたが、その中で、指定更新に当たり塩販売数量が被告の定める塩販売標準数量に達しないときは、不継続となる場合があるので注意されたい旨特に注意を捉し、かつ原告の属する地域区分の地区における右同日以降の塩販売標準数量は四七〇〇キログラムであり、右数量の三分の一をもつて判定の基準にされたことも告知している。そして、原告は、右集合指導に出席していたのであるから、当該地域の前記販売標準数量及び販売実績が前記基準の数量を下廻る場合の不継続の可能性について十分に知つていたはずである。

第六証拠関係<省略>

理由

一  請求原因一(本件処分の経緯)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件処分に原告主張の違法事由があるか否かについて判断する。

1  法二六条三項によれば、被告は塩販売人の指定の期間が満了した場合において、引き続き指定(指定更新)することを適当と認めるときは、申請をまたないでその指定をすることができる旨定められているが、右にいわゆる指定更新の性質は、右規定の文言、趣旨等にかんがみ、新規の指定と基本的に異なるところはなく、被告の裁量処分に属するものと解すべきであるから、その許否の基準は、法二五条所定の塩販売人指定についての裁量の基準に準じて考えるのが相当である。そして、法二五条一項六号によれば、被告は、塩の販売予定数量が被告の定める標準に達しない場合には塩販売人の指定をしないことができるものとされているが、指定更新は、新規の指定の場合と異なり、当該販売人には既に塩販売の実績があるのであるから、そのような実績を有する者について引き続き塩の販売をさせるのが適当か否かの観点からこれを判断するのが相当である。

ところで、被告は、右の指定更新の基準を更新期のつど塩小売人指定更新実施要領(乙第三号証)によつて定めており、昭和四七年六月三〇日を指定の終期とする塩小売人の指定更新については、同四六年度の塩販売数量が手続二五条に基づいて設定した地域区分ごとの販売標準数量の三分の一に達しない場合には原則として指定更新しない旨を定め、ただ不継続にすることにより消費者の便益を著しくそこなうと認められる場合には、その販売数量が前記の販売標準数量の三分の一に達しない場合にも指定更新し得る旨を定めていることは、当事者間に争いがないところ、右は法二五条一項六号に則り指定更新の許否を決めるべき基準としてなんら不合理な点はないから、被告は、当該塩小売人の販売数量が右実施要領所定の標準数量に達せず、かつ前記除外事由にも当たらない場合には、法二六条三項に定める「引き続き指定することを適当と認めるとき」に該当しないとして指定更新を拒むことができるものというべきである。

原告は、被告が販売標準数量を過去三か年の当該地域における平均販売数量によつて算出するのに、指定更新を希望する塩小売人の販売数量を前年度のみの実績によつて算定するのは不当である旨主張する。しかし、販売標準数量を地域区分ごとの過去三年間の平均販売数量をもつて算定することに何の不合理もないことはいうまでもなく、他方指定更新を希望する小売人の販売見込数量については、被告主張のように、過去の販売実績の中で将来の販売見込数量を判断するのに最も適切な資料である当該小売人の直前一年間の実績を基礎にして判定することも、合理的な方法たるを失わない。

したがつて、両者の算定の方法には、原告の指摘する不合理な点はないものというべく、原告のこの点についての主張は、採用するに由ないものである。

また、原告は、被告が指定更新についての基準等を原告に告知しないで不継続処分をしたのは不当であると主張するが、既に法二五条一項六号の規定が存在し、その運用に関する基準が右にみたように相当なものである以上、右基準に則つて行われた処分は、このような基準が被処分者に告知されたか否かにかかわらず、適法というほかない(なお、被告主催の昭和四四年七月二一日の東栄ホールでの集合指導において、「塩小売人指示事項ならびに営業心得」と題するパンフレツト(甲第五号証)が、当日出席の原告を含む日本橋塩販売組合員に対して配布されたことは当事者間に争いがなく、成立につき争いのない甲第五号証及び証人伊東、同泊の各証言によると、右パンフレツトには「指定更新にあたり塩販売数量が公社の定める塩販売標準数量に達しないときは、不継続となる場合がありますので注意して下さい。」との記載があるうえ、被告の社員が右集合指導においてこの点について具体的に説明したことが認められ、右認定に反する原告代表者尋問の結果は、前掲各証拠に対比して採用できない。)。よつて、原告のこの点に関する主張も失当である。

更に、原告は、原告を不継続処分にすることは、付近消費者の利便を著しく損う結果となるから違法である旨主張するが、かかる主張は原告自身の法律上の利益に関係のない違法の主張であるから、行訴法一〇条一項により許されない。

三  以上判示のとおり、本件処分には原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦 加藤和夫 石川善則)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例